咲き誇る桜は遥か昔に。
囁く言葉は詩にのせて。
彼の一筋の金糸を求め。
ただひたすらに愛を囁く。


【白昼夢】


夏が来た。
鬱陶しい、夏が。
初夏の纏わりつく空気は嫌な記憶を思い出させる。

「…っ…」

自分のデスクに突っ伏し、突如襲われた頭痛をやり過ごす。
大丈夫、大丈夫だ。私はまだ、やれる。
呪文のように脳内に注ぎ込まれる言葉達を飲み込み、ゆっくりと頭をあげた。
蝉の喧しい声が耳に届く。

「…エド」

虚空を見つめ、無意識の内に呟いていた。

「エド、エドワード・エルリック」

金の髪を尻尾のように揺らし、小さな背で噛み付く犬。
国家錬金術師という名の、犬。
どこに居るだろうか、と思いを馳せても彼は遥か彼方の地だ。
額に手をあて、下を向き、軽く自嘲の笑みを漏らした。

「確かに、私は無能だな」

彼が近くに居ないというだけで精神すら、まともに保てない。
自分の胸にある感情は、愛と言う名の狂気だ。
束縛して、離したくない。
アレは私だけのものだ。

「愛している、鋼の」

遠き地に居る彼へ囁くように、窓を眺め、優しげに笑った。
だから早く帰っておいで…。
狂気の前では悪夢すらただの夢。





fin.