【マリオネット】




人間って窮地に立たされると精神が崩壊するみたい。

嘲笑っているような澄んだ空を仰ぎ見た。
下は真っ赤な海。上は真っ青な空。
あまりにも対比過ぎる光景に笑いが洩れる。
馬鹿馬鹿しい、と全てを否定する笑いが。

「下らない」

実験対象に、と生身の人間を殺しあわせる大人達も。
それに逃げ戸惑うクラスメイト、チームメイト達も。
全てが、何もかもが。

「本当に、下らない…」

ククッと口端を歪めて、手にしている銃を弄ぶ。
弾は後、1発。
誰も残っていない廃虚では何も意味を成さないが。
マリオネットみたいに無造作に転がっている友人。
破壊尽くされた痕。
何を求めていたのだろうか、何かを掴もうと形作った手。
それらを無感情に見回して、クスクス笑った。

「ねぇ、屑桐さんもそう思わない?」

片手で抱き込み、首筋に唇を寄せて呟く。
今はもう動かない愛しい人。
真っ赤に染まった顔は苦悶の表情で飾られている。
御柳は返事がないにも関わらず呟く事を止めない。

「そう…屑桐さんもそう思う?やっぱり俺達って気が合うね」

幸せそうに笑う。
もう何をも見つめていない濁った瞳は過去の亡霊しか映していない。
恋人が生きていた、あの頃だけ。

「屑桐さん。屑桐さん、寒いの?身体が冷たいよ?」

答える筈のない恋人を気遣い、手を摩る。

「屑桐さん…屑桐さん屑桐さん屑桐さん屑桐さん屑桐さん屑桐さん」

摩っても暖かみを増さない手を握り。
話し掛けても答えない人形を抱き。
そして、狂気はあっさりと壊れた。

「俺、もう疲れた」

素早い動作で顳かみに銃口をやり、響く銃声。
暖かい血飛沫は2人を抱き込んだ。
あたかも、赤い布団のように。






fin.