【将来計画】 ガッ、ガッと固い物通しのぶつかり合う音が聞こえてくる。 そして、愛しい彼の声も。 「ユーリッ!そこは避ける所だ!」 「無茶言うなよ、ヴォルフ!」 揺れる金髪と黒髪。 一方は古くからの友人、渋谷有利。 そしてもう一方はこちらに来てから出会った。 渋谷が良い事、言ってたっけ。 『怒れる天使』フォンビーレフェルト卿ヴォルフラム。 渋谷は元殿下であり軍人の彼に学ぶ事も沢山あるだろう。 フォンクライスト卿の剣技でも良いんだけど実践的では無さそうだ。 「コンラッド〜…」 渋谷から助けてくれよ、と目で合図を送られた青年。 ユーリの側近、ウェラー卿コンラート。 現在は、優雅に持参したらしい水筒に入るお茶を飲んでいる。 そしてここには居ないけれどフォンヴォルテール卿グウェンダル。 彼等はフォンビーレフェルト卿の兄達だ。 その彼等はどうやら現在、渋谷の事を好いている…と思う。 少なくとも好意は存在する。 「駄目ですよ、陛下。ヴォルフに剣を教わる事は悪い事ではありませんし」 にこりと人好きのする、との評価を受ける笑顔を返し、はっきりと言った。 「それに…ねぇ、猊下?」 そこで視線が僕に向けられる。 気付いていただろうに声をかけないのも彼らしいというか何と言うか。 「そうだよ、渋谷。覚えておいて悪い事は無いって」 「む〜ら〜たぁ〜」 今、僕が居る事に気付いたらしい渋谷が恨めしそうな顔になる。 彼は「守られる事に慣れなくてはならない」そう言ったのは僕。 それでも最悪の場合を想定して動く。 だから、フォンビーレフェルト卿に指南を頼んだ。 「ユーリ!どこを見ている!」 「うっわ、ちょ、タンマ!」 次兄と話す渋谷の姿に痺れを切らしたらしいフォンビーレフェルト卿が叫ぶ。 ズカズカと進んでくる天使の姿には似合わず軍人歩きだが、考えれば彼らしい。 しかし、手に持つのは訓練用の魚剣。 フォンビーレフェルト卿に腕を掴まれてズルズルと連れていかれる渋谷を見て、 思わずクスクスと笑みが溢れる。が、音が重なっている事に気がついて ウェラー卿の方を見たら同じように口に手を添え笑みを零していた。 「うぅぅぅぅ…猊下もお人が悪い…陛下の指南なら私が致しましたのにぃ〜」 なんちゃって貞子と化したフォンクライスト卿がいつの間にか背後に立っていた。 ブツブツと陛下の腕とか掴んじゃったり出来るかも知れないのに…と言っている。 「だって、フォンクライスト卿。真面目に立ってれば格好良いのに鼻血出すし」 「ですが、猊下…」 「渋谷に嫌われたくなければ大人しくしてた方が良いって」 渋谷がフォンクライスト卿ギュンターを嫌うはずがないと判ってて言った言葉だ。 しかし彼には此の世の地獄に等しい宣告だったのだろう。 「私は執務に戻ります」と言ってそそくさと退散していった。 「猊下もギュンターの扱いに慣れてきましたね」 「ウェラー卿をお手本にしたんだよ。さて、と…そろそろ昼食の時間だね」 「陛下も大分、上達されました」 満足げに渋谷を見て頷くこの見た目好青年な側近はよいしょ、とかけ声をかけて立つ。 親父ギャクやこのような実年齢を知らせるような言動をしている ウェラー卿を女性に見せたらどうなるだろうか? (いや、世の女性はこんな所も良いと言うんだろーなー…) と、考えてしまってから渋谷のところへ向かうウェラー卿を引き止める。 「ねぇ、ウェラー卿。ひとつ聞いてもらっても良いかな?」 「何です?猊下。胸も手も陛下の物ですから差し上げられませんよ?」 笑みをのせた顔だけをこちらに向け、振り向く。 こんな時でも大人の余裕を忘れない所は渋谷に見習ってもらいたいものだけれど。 「君の弟さん…フォンビーレフェルト卿を僕にくれないかな?」 初めて唖然としたウェラー卿を見た。 すぐに思考を取り戻した彼はなおさら笑みを深めてこう言った。 「お断りです」 「でも、このままだと渋谷と結婚しちゃうよ〜?」 「させません」 笑顔のままズカズカと進むウェラー卿。 何となく顳かみに青筋が立ってる気がする。 「ちゃんと幸せにするか…」 「どっちにしろ俺の弟を男にやるつもりはありません」 キッパリとそんな言葉を残し、渋谷とフォンビーレフェルト卿の所へ向かっていった。 「自分は渋谷を狙ってるのにね…」 ボソッと誰にも聞こえないように呟いたつもりだったのに弟を思う気持ちは距離をも超えさせるのか。 「何か言いました?猊下」 ウェラ−卿がかなり遠くから訪ねてくる。 (本気なんだけどね) どうやら道のりは長そうだ。 ウェラー卿を乗り切ってもフォンヴォルテール卿が残っている。 「何でもないよ」 それでも諦めたりなんかするはずがないけれど。 ククッと人からは腹黒いと称される笑みを浮かべ彼等の後を追った。 フォンヴォルテール卿が卒倒するのはこのすぐ後である。 fin.