その唇に、甘い甘い毒を。 ―――塗りつけてきたんでしょう? 【lips】 無理やりに抱き寄せて、顔を寄せる。 唇が僅かな角度を付けて、合わさる。 互いの舌が絡み合った。 クチュリ、と幾たびも水音が鳴る。 余りの至近距離だから聞こえてるだけだろうが、何とも淫猥だ。 相手の喉が混じりあった唾液を嚥下するのを見届けると、唇を離し、互いを繋ぐ銀糸を舐め取った。 「甘い」 「…は?」 先程の余韻か、僅かに頬を紅潮させながら上がった息を整えている。 抜けた表情は間抜け そのものなのだが、言葉にしたらメスが飛んで来る事、間違いないだろう。 「甘い、味がしました。また羊羹でも食べてきたんですか?」 「…あぁ、アレだ。ピノコが寄越したリップクリームの所為だろう」 ほら、とポケットから探り出したのは彼に似つかわしくないピンクのキャップ。 今時の女の子が持つような、花の柄まで付いている。 相手の腕ごと鼻に引き寄せると、甘い甘い、苺の香り。 きっと彼の事だ、愛しい愛娘からの贈り物を断りきれなかったに違いない。 「…本当に貴方は お嬢ちゃんにだけは甘いですね」 多少の嫉妬と、多大な恨みを込めて見やるも肩を竦めるだけで、否定もしない。 こちらからの贈り物は中身も確認せず、一蹴、捨て去ると言うのに。何て憎らしい。 相手の悪びれの無い態度に、溜め息一つ。 「私が甘いもの苦手なの、ご存知でしょうに」 「だから、付けて来たに決まってるだろうが」 ほぼ即答で返された その言葉。 其れは、私と会えば必ずキスをすると確信した言葉だろうか。 しかも それを許容するような。 知らずに苦笑。 全ては予想の上に成り立つ単なる推測、彼の思惑は分からないけれども。 「…貴方は本当に可愛い人ですね」 取り敢えず、今は。 仏頂面で視線を外し、離れようとする彼の腰を抱きしめて。 もう一度、キスを落としてやろうと思う。 fin.