[01:君の手のぬくもり] 夕焼けの紅が空を覆う。 次第に紫へ、そして黒色へと染まっていくのだろう。 川沿いの土手に寝転びながら、その光景を脳内に描き、其の美しさに笑みを浮かべた。 隣に寝転んだ、相手も似たような事を考えていたのだろうか。 「空、綺麗だな」 「……ん」 ポツリと小さく言葉を溢し、はにかみながら相手の手を握る。 握り返された温もりが何よりも愛しかった。 ただ一つだけでも、大切なものを握り締める事が出来たなら。 其れが最高の幸せなんだろう。 ■ ■ ■ [02:その髪に触れ] 誰も居ない教室に飾られた、1枚のキャンバス。 描かれた鉛筆画…授業中に書いた、彼女。 ス…と手を這わせると腰を屈め、彼女の同じ黒髪に口付けた。 上体を起こして、自分の行為に顔を染めながら退室しようとする。 そして、唇に付いた鉛筆粉を知らずに舐め取り、眉間に皺を寄せる。 …………苦かった。 ■ ■ ■ [03:青空に溶けるような微笑] 影法師を知っているだろうか。 影を数秒凝視してから空を見上げると、青空に其の影が映る。 昔は、そうして良く遊んだ。 「バイバイ」 金網が、ガシャリ、と鳴る。 彼女が、グシャリ、と成る。 誰かの悲鳴が響く、天を仰ぎ、知らずに叫ぶ。 最後に笑った、彼女の笑顔が青空に見えた気がした。 ■ ■ ■ [04:君が笑っている、それだけで] 『綺麗ね』 風が吹いて、私の薄紅色した花弁を散らす中、聞いた言葉。 貴女には、何気無い人ことだったかも知れません。 ですが、私には何にも変え難い一言だったのです。 何時か枯れ逝く私の代わりに、種子を撒きましょう。 種が根付き、芽が出て、健やかに育ち、また可憐に花を咲かせるよう願いましょう。 『だから、私は春が好きなのよ』 満開に咲き誇る桜の花が、また、貴女を楽しませるように。