本当は、とても優しい君だから。 捨てられた犬に弱くて、ついつい拾ってしまう事も知ってる。 だから、僕は此処に居るんだもの。 ねぇ…僕は、 【まだ君の傍に居ても良いかな】 「笑太君」 休憩室のソファで寝る相手に、声を掛け、肩を軽く揺する。 低く呻きながら、すぐに起きた所を見ると眠っていたと言うより目を閉じて休息を取っていた様だ。 だって、彼は最悪に寝起きが悪い。 上体を起き上がらせた彼の着ていた特刑服は皺くちゃで、そして、後頭部の髪もグシャグシャ。 其れに、クス…と笑いを零してから髪を梳き撫でてやる。 「鬼の総隊長様も形無しだね、子供みたい」 「うっせ。…で、何の用だよ」 「僕らの所に新しい人が来るんだって」 第一部隊に、と告げると面白いくらいに顔が歪んだ。 「めんどくせー…」 「そんな事言わないの、仲良くするんだよ?」 だって、何で、とブツブツ文句を呟きながら、身なりを整えてソファから下りる。 バサリと真白い特刑服を翻す彼の姿は視線を集める。 男の僕から見ても、顔は良いし、スタイル、声に至っても言う事は無い。 そんな彼の斜め後ろが僕の定位置。 「ったく、何で今更…どうせ、ムサいのが来るんじゃねぇの〜?」 「其れは嫌だなー…ほらほら、進んで」 渋々…と言った足取りの相手を、後ろから軽く押すように無理やり歩を進ませる。 正直、どんな人が来ても構わないけれど、捨て犬みたいな人だったら困るかも。 だって、きっと、また君は拾ってしまう。 「…後で覚えてろよ、清寿…」 「はいはい、もう部屋に着くよ」 近付く扉に観念したのか、自力で歩き出す相手に押す手を緩めて二人並んで歩く。 さながら、飼い主と犬の散歩みたい。 そう思って知らずに口元に笑みを乗せていたらしい、笑太君が訝しげな顔をして此方を見てきた。 「…何、笑ってんだよ」 「何でも無い、ほら入るよ」 「ちょっと待て、清寿ッ」 心の準備が。と情け無い事を言う相手を尻目に、コンコン、と軽く扉を叩く。 扉の奥に居るのは、どんな人だろうか。 仲良くやっていけるだろうか。 大きな期待と、少しの不安…そして、淡い羨望に心中を焦がしながら。 話し声は聞こえるも返答の無い、其の扉を開けた。 fin.